ネット上のコミュニティや飼育ブログには、自傷行為に関する危険な誤解が散見されます。その最たるものが、「毛をむしっている現場を見たら大声で叱って止めさせる」「無視していればそのうち飽きてやめる」という言説です。これらは獣医学的・行動学的に完全な誤りであり、事態を破滅的に悪化させる引き金になります。
大声で叱責された犬は、「毛をむしったこと」を反省するのではなく、「飼い主の予測不能な攻撃」に対して恐怖とパニックを感じます。その結果、生じた強烈なストレスを解消するために、飼い主の見ていない隠れた場所(クレートの奥や別室)でさらに激しく毛をむしるようになります。また、飼い主が慌てて駆け寄り「ダメでしょ!」と声をかけること自体が、犬にとっては「毛をむしれば構ってもらえる」という報酬(アテンション)として機能してしまう危険性もあります。
さらに、「単なる毛の生え変わりや換毛期の痒みだろう」と放置するのも致命的です。換毛期による自然な脱毛は体全体から均等に抜けるものであり、特定の部位だけを前歯で集中的に引き抜いたり、皮膚に発赤や出血を生じさせたりすることは絶対にありません。局所的な脱毛と自傷行為は、100%異常事態であると断定すべきです。