咳は大きく分けると、痰を伴わない乾いた「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」と、痰が絡む湿った「湿性咳嗽」の2種類に分類されます。湿性咳嗽が生じる根本的なメカニズムは、気道粘膜に存在する分泌腺からの粘液分泌過多と、外敵を排除しようとする免疫細胞の応答にあります。
通常、私たちの気道表面には適度な粘液の膜が張られており、吸い込んだチリや埃、病原体を絡め取っています。それらは気道表面の細かな毛(繊毛)の規則正しい運動によって、無意識のうちに喉元へと運ばれ、最終的には胃へと飲み込まれて処理されます。しかし、ウイルス感染やアレルギー反応、慢性的な刺激が加わると、気道粘膜が炎症を起こし、分泌液の量が爆発的に増加します。
増加した分泌液に白血球の残骸や剥がれ落ちた粘膜上皮が混ざり合ったものが「痰(喀痰)」です。気道内のセンサーがこの過剰な分泌物を感知すると、咳反射が作動し、爆発的な呼気とともに痰を外へと吐き出そうとします。つまり、痰が出る咳 原因の根底にあるのは、気道を浄化しようとする体の懸命な防衛活動そのものなのです。
ところが、この炎症が気道の深部(気管支や肺胞)にまで及んだり、分泌物の粘度が高すぎて繊毛運動が麻痺したりすると、痰が気道を塞ぎ、呼吸困難や二次感染を引き起こす引き金へと変貌します。「咳が止まらない」という現象の裏には、気道が痰を排出しきれずに溺れかけているという生理的危機が潜んでいるケースが少なくありません。