SNSや登山コミュニティで毎年散見されるのが、「本八合目を未明2時に出たのに、九合目の鳥居手前で全く動かなくなり、登山道上で日の出を迎えてしまった」という悲痛な手記です。山頂での感動的な瞬間を手中に収めるためには、現地特有のボトルネック構造を理解した富士山ご来光出発時間の設定が不可欠となります。
吉田ルートの本八合目から山頂までの標準コースタイムは通常約1時間40分程度と案内されています。しかし、これは日中の誰もいない時間帯の数値に過ぎません。夜間から未明にかけては、ヘッドライトを点けた数千人の登山者が一本の岩場に滞留し、コースタイムの1.8倍から2.5倍の所要時間を要する大渋滞が発生します。
現場取材から割り出された、宿泊山小屋別の推奨出発ラインは以下のスケジュールです。
・七合目の山小屋(標高約2,700〜2,900m)泊:午後11時30分〜午前0時出発
・八合目の山小屋(標高約3,100〜3,200m)泊:午前0時30分〜午前1時出発
・本八合目の山小屋(標高約3,400m)泊:遅くとも午前1時00分〜1時30分出発
「山頂まで残り300メートル強だから午前2時起床でも間に合うだろう」という油断は命取りになります。九合目付近の急峻な岩場では安全確保のために歩行ペースが一気に落ち、立ち止まったまま風速10メートルの強風に晒され続けるリスクがあります。もし未明の体調チェックで少しでも高山病の兆候や極度の疲労を感じた場合は、「山頂登頂に固執せず、宿泊した山小屋のテラスからご来光を拝む」という選択こそが、現場を知るベテラン登山者が強く推奨する賢明な判断です。七合目や八合目からでも、東側に視界が開けている山小屋であれば、山頂と遜色ない息をのむ雲海日の出を安全かつ快適に鑑賞できます。