今でこそ国民的俳優として親しまれる小日向文世氏ですが、その前半生は想像を絶する苦闘の連続でした。写真専門学校を卒業後に役者を志し、1977年に串田和美氏が主宰する伝説の劇団「オンシアター自由劇場」に入団。ここから42歳で劇団が解散するまでの実に約19年間、長きにわたる下積み時代を過ごすことになります。
劇団員時代の収入は微々たるもので、舞台のチケットノルマや生活費を工面するために借金を重ねる日々でした。当時のインタビューや手記において本人は、借金が数百万円にまで膨らみ、毎月の利息を返すだけで精一杯だった悲惨な状況を赤裸々に告白しています。主役を張る看板俳優たちの影で、脇を固めながらも「自分はこのままで役者として生きていけるのか」という先の見えない恐怖と隣り合わせの毎日でした。
1996年の劇団解散後は、仕事が完全に途絶える危機に直面。事務所を転々としながら端役を拾い集める過酷な境遇が続きましたが、運命を大きく変えたのが2001年、47歳のときに出演したフジテレビ系月9ドラマ『HERO』でした。木村拓哉氏演じる主人公が所属する城西支部の事務官・末次隆之役で見せた飄々としたコミカルな演技が全国のお茶の間を魅了し、一躍スターダムへと駆け上がったのです。