音節を細かく跳ねさせ、語尾を唸るように引き伸ばす独特のデフォルメ演技「若本節」。バラエティ番組のナレーションやギャグアニメで親しまれているこのスタイルは、単なる思いつきや悪ふざけから生まれたものではありません。
音響監督や共演者の証言を丹念に追うと、その裏にある求道者的な職人魂が浮き彫りになります。若本は50代を迎えた頃、自らの喉と表現力に大きな転換期を迎えました。「加齢とともに声帯の筋力や瞬発力は落ちる。そのまま同じ芝居を続けていては、若い世代の模倣や下位互換に甘んじてしまう」という強烈な危機感でした。
そこで彼が再構築したのが、古武術や浪曲、能楽、オペラの発声法を融合させた独自の発声論です。丹田(へその下)を意識し、息を吐ききったところから共鳴腔をフル活用して繰り出す音圧。言葉の「子音」を極限まで強調し、リズムをシンコペーション(拍のずらし)させることで、マイク前に立つだけでスタジオの空気を一変させる支配力を手に入れたのです。
スタジオ現場で若本と共演した若手声優たちは、一様にそのストイックさに圧倒されるといいます。台本にはブレスの位置、強弱記号、アクセントの山が幾重にも書き込まれ、アフレコ直前までスタジオの隅で丹田呼吸法による精神統一を行う姿が見られます。「自分の声を楽器として調律し尽くす」という徹底した姿勢こそが、業界内で「若本さんにしかできない」「代役が存在しない」と称賛される理由です。