宮崎県立美術館の最大のアイデンティティは、開館前後の文化政策において明確な理念のもとに集められたコレクションの突出した純度にあります。なかでも来館者の目を釘付けにするのが、20世紀ベルギーのシュルレアリスムを牽引した巨匠、ルネ・マグリットの代表作《現実の感覚》(1963年)です。巨岩が重力を無視して宙に浮かぶこの象徴的なキャンバスは、かつてバブル期前後の地方自治体が競い合って美術品を購入した時代にあっても、極めて高い先見性を持って選定された名品として国内外の美術史研究者から高く評価されています。
美術館関係者の解説によると、同館は「宮崎県出身および宮崎にゆかりのある作家」「国内外の近現代美術」「日本の伝統工芸」を三本柱として収集活動を継続してきました。その象徴的頂点に位置するのが、宮崎市出身の前衛芸術家・瑛九(本名・杉田秀夫)の膨大なコレクションです。油彩画にとどまらず、彼が独自に切り拓いたフォト・デッサンやエッチング、リトグラフなど数千点規模に及ぶ資料群を体系的に所蔵しており、単一作家の回顧・研究拠点としては世界で並ぶものがありません。
マグリットの静謐な謎と、瑛九の放つ爆発的な光と色彩の点描。この鮮烈な対比こそが、遠方からわざわざ足を運ぶ鑑賞者が「地方美術館の印象を根底から覆された」と感嘆する決定的な要因となっています。