大名同士の婚姻を幕府の事前承認制とした規定は、政略結婚による強大な軍事同盟の結成を未然に阻止するための防壁だった。幕府の頭上を越えて大名同士が私的に手を結べば、中央政府を脅かす一大勢力が誕生しかねないからだ。
現代のビジネス環境に置き換えれば、これは競合他社や見えない資本との不透明な資本提携、あるいは取締役によるインサイダー的な派閥形成を監視する「合弁・M&Aガバナンス」の思想に通じる。特定のアライアンスが組織全体の利益を損なわないか、背後に怪しい資金源やデータ共有の協定が存在しないか。情報が瞬時に拡散する2026年のグローバル市場において、無規制のネットワーク拡大は破滅の引き金になり得る。
法史学者の高橋和久教授は「結婚という個人的・地縁的な結合すらも公的なインスペクション(検分)の対象とした点に、徳川システムの徹底したリスク排除の冷徹さがあります。私的なネットワークが公的な組織倫理を侵食することを徹底して警戒していたのです」と解剖する。