昭和30年代から40年代にかけて活躍した昔のバス車内には、現在の車両では見られないユニークな装備が詰まっていました。当時の車内風景を象徴する代表的なアイテムが「木張りの床」です。当時の床板には主にスギやマツなどの厚い木材が使われ、定期的に「アブラ」と呼ばれる重油や防腐オイルが塗布されていました。
この黒光りする油引きの床には明確な実用的理由がありました。未舗装の砂利道や泥道が多かった当時、乗客の靴底についた泥や砂埃を油が吸着して車内の粉塵舞い上がりを防ぎ、さらに雨水による床板の腐食を防ぐ防水・防腐効果を兼ね備えていたのです。独特の油とディーゼル排ガスの香りは、昭和世代にとって忘れられない旅の記憶となっています。
冷房設備がまだ一般的でなかった時代、天井には小型の首振り扇風機が設置され、窓は風を直接取り込める2段式の引き上げ窓が主流でした。座席背面に当たり前のように設置されていた金属製灰皿や、網で編まれた荷物棚など、当時のバス内装写真を振り返ると、大衆の移動手段としての生々しい生活感が随所に刻まれています。