自然界に存在する音や生体シグナルは、三角関数の綺麗なサイン波ではない。複雑怪奇でノイズに満ちている。これらを解きほぐす魔法の杖となったのが、18世紀から19世紀にかけて活躍したフランスの数学者ジョゼフ・フーリエの着想だ。
どんなに歪んだ波形であっても、異なる周波数と位相を持った単純な波の重ね合わせとして分解できる。このフーリエ変換と呼ばれる数学的手法は、現代のデジタル信号処理の背骨を形成している。音声ファイルからノイズを取り除き、通信回線の帯域を極限まで効率化できるのは、周波数スペクトルだけでなく位相情報を完全に保持したまま波を再構築しているからにほかならない。位相情報が欠落すれば、元の音や画像は原型をとどめないノイズの塊へと崩壊してしまう。