『ルージュの伝言』の発売日は1975年2月20日。荒井由実名義での通算5枚目のシングルとして世に送り出され、同年6月リリースの名盤アルバム『COBALT HOUR』にも収録されました。この楽曲を日本のポップス史に残る傑作へと押し上げた要因の一つが、当時の音楽界の至宝たちが結集したレコーディング環境にあります。
演奏を務めたのは、細野晴臣(ベース)、鈴木茂(ギター)、林立夫(ドラムス)、松任谷正隆(キーボード)からなる伝説的バンド「ティン・パン・アレー(キャラメル・ママ)」。そして、楽曲の骨格を成すドゥーワップ調のコーラスアレンジを手掛け、自らも参加したのが当時シュガー・ベイブとして活動していた山下達郎でした。
当時のスタジオ記録やインタビュー証言によると、コーラス隊には山下達郎のほか、大貫妙子、吉田美奈子、そして伊集加代子という、日本のシティポップおよびスタジオワークの頂点に立つボーカリストたちが勢揃いしていました。山下達郎の野太くグルーヴィーなベースボーカルと、吉田美奈子・大貫妙子らの華やかでスモーキーなハーモニーが幾重にも重なることで、1950〜60年代のアメリカン・ポップスへのオマージュを極めて高い純度で再現しています。
荒井由実自身も自著や過去の回想録において、この豪華なコーラスセッションについて「スタジオ全体が魔法にかかったような熱量だった」と述懐しています。単なる歌謡曲のバックコーラスの域を超え、緻密に計算されたアンサンブルが楽曲全体に弾むような躍動感を与えています。