名店として愛された田舎家 奥道後店が閉店に至った背景には、単一の経営要因ではなく、複数の社会構造的変化が重なり合っています。
第1に、奥道後リゾート全体の事業再編と近代化です。かつての「ホテル奥道後」は、事業再生プロセスのなかで大規模なリノベーションを実施し、現在は西日本最大級の露天風呂を誇るモダン温泉リゾート「奥道後 壱湯の守」へと生まれ変わりました。この宿泊特化・館内完結型リゾートへのシフトに伴い、周辺の屋外独立店舗群の集約・整理が進められた経緯があります。
第2に、旅行形態の構造的シフトが挙げられます。昭和・平成初期の「大型観光バスによる団体周遊型」から、平成後期以降の「個人・少人数によるピンポイント体験型」へと旅行需要が大きく変化しました。国道317号線(今治街道)のバイパス整備やしまなみ海道の開通により、通過交通のルートが変化したこともロードサイド型飲食店の集客動態に影響を与えました。
第3に、伝統的な大型古民家建築の維持管理コストと人手不足です。巨大水車の保守や茅葺き屋根・木造家屋の維持には専門的な職人技と莫大な経費を要します。飲食業界全体を取り巻く後継者難やコスト高騰も相まって、惜しまれつつ暖簾を下ろす決定が下されたとみられます。