ビジネス文書を作成する際、多くの人が直面するもうひとつの大きな分かれ道が「いたします(平仮名)」と「致します(漢字)」の使い分けです。変換候補に出てくるがままに「よろしくお願い致します」と漢字で入力しているケースが目立ちますが、公用文の用字用語ルールにおいて両者には明確な機能差が存在します。
文化庁や内閣法制局が定める公用文作成要領では、単独で動作を表す本動詞(実質動詞)は漢字で表記し、動詞の下について特定の文法機能を添える「補助動詞」は平仮名で表記することが原則と定められています。
- 本動詞の「致す」(漢字):「全力を尽くす」「事態を引き起こす」「届かせる」などの具体的な意味を持つ動詞。(例:「全力を尽くして業務を致します」「不徳の致すところです」)
- 補助動詞の「いたします」(平仮名):「お願い」という動詞性名詞に添えられ、へりくだりのニュアンスを補う働き。(例:「ご案内いたします」「よろしくお願いいたします」)
したがって、「よろしくお願い+いたします」の場合は補助動詞であるため、平仮名表記の「よろしくお願いいたします」が文法上最も整った表記となります。漢字で「致します」と書いたからといって致命的なマナー違反と見なされるわけではありませんが、出版・報道各社や官公庁の文書管理基準では平仮名表記が徹底されています。