ムロツヨシのキャリアを語る上で欠かせないのが、演出家・映画監督の福田雄一との出会いです。『勇者ヨシヒコシリーズ』で演じた魔法使いメレブ役をはじめ、福田雄一監督作品においてムロツヨシが見せる独特の間、あえて脱力させるセリフ回しは、深夜ドラマ発祥のサブカルチャー的ヒットを牽引しました。
しかし、単なる「福田組の常連コメディアン」に留まらない転換点となったのが、NHK大河ドラマ『どうする家康』における豊臣秀吉役です。当初は見慣れた人たらしの明るいキャラクターとして登場しながら、権力の階段を駆け上がるにつれて見せる狂気、目が笑っていない冷酷な表情、人間味の裏に潜む底知れぬ闇を緻密に演じ分けました。
心理学における「シャドウ(影・無意識の暗黒面)」を体現したかのようなこの怪演は、視聴者や批評家から「歴代で最も恐ろしい秀吉」と評され、俳優・ムロツヨシの演技の引き出しの深さを決定づける証左となりました。陽のエネルギーで笑わせる技術と、陰のリアリティで震え上がらせる表現力。この両極を自在に行き来できる点に、唯一無二の存在価値があります。