原作第1部終盤における「ヤモリの拷問シーン」は、作品屈指のターニングポイントとして知られています。肉体と精神の限界を超えたカネキが白髪へと変貌を遂げ、放った決定的なセリフがこれです。
「この世のすべての不利益は 当人の能力不足」
この言葉は元々、ヤモリが拷問中にカネキへ刷り込んだ冷酷な弱肉強食の論理でした。しかし、精神世界で神代利世と対話したカネキは、この言葉の切っ先を過去の自分と最愛の母親へと向けます。カネキの母は親族からの無心に耐えかね、過労死していました。「傷つけるより 傷つけられる人に」という母の教えを美徳として信じてきたカネキは、母が死んだ本当の理由は優しさではなく、拒絶する強さを持たなかった「能力不足」による自己満足だったのではないかと直視します。
誰かを傷つけない選択は、結果として自分を愛してくれる者を守れず、すべてを失う。その痛烈な自己批判を受け入れた瞬間、カネキは「大切な者を守るために、敵を容赦なく排除する暴力」を自らに許可しました。英語圏の公式翻訳版では次のように表現されています。
"All the disadvantages in this world stem from a person's lack of ability."
また、ヤモリがカネキに課した「1000から7を順に引いていく計算(1000-7=993, 986...)」は、意識を失ってショック死することを防ぎ、激痛の覚醒状態を維持させる拷問技術でした。しかし覚醒後のカネキは、今度は自らがヤモリを圧倒し、その耳元で「1000引く7は?」と問い返します。被害者が加害者の手法と論理を完全に内面化し、超越してみせたこの構図こそ、カネキの精神的変容の凄まじさを象徴する場面です。