中原中也という存在を語る上で避けて通れないのが、異能力の真の形態である「汚濁」と、その魂に宿る荒ぶる神「荒覇吐」の謎です。
通常の異能「汚れつちまつた悲しみに」は、中也自身が触れた物質の重力の向きと強さを自在に支配する能力です。ビルを素足で駆け上がり、敵の銃弾を空中で静止させ、巨大な瓦礫を軽々と弾き飛ばすなど、その応用範囲は多岐にわたります。しかし、この能力の真価であり最大の呪いでもあるのが、詠唱「汝、陰鬱なる汚濁の許容よ、更めて我を目覚ますことなかれ」とともに解放される「汚濁」形態です。
汚濁を発動した中也は、自身の肉体周囲に高密度の重力子による空間歪曲を発生させ、圧縮された重力弾(ブラックホールに酷似した現象)を無制限に乱射する破壊神へと変貌します。ギルド編で見せた異能生命体ラヴクラフトとの激突や、劇場版『DEAD APPLE』で見せた巨大異能竜の撃破など、その火力は国家転覆級です。
しかし、その代償は文字通り自らの命です。汚濁を発動した瞬間から中也の意識は蒸発し、荒覇吐の凶暴なエネルギーに呑まれて敵味方の区別なく破壊を繰り返します。肉体は急速に崩壊へ向かい、全身の毛細血管が破裂して吐血し続け、力を使い果たすまで暴走が止まることはありません。太宰治の異能「人間失格」による無効化処置が施されない限り、中也の生還率はゼロという絶対的な制約を抱えています。
スピンオフ小説『中原中也、十五歳』および『STORM BRINGER』で克明に明かされた通り、中也の正体は軍の秘密研究によって誕生した「高密度特異点エネルギー体(コードネーム・荒覇吐)」を内包した人造生命体(クローン体)でした。「自分は本物の人間なのか、それとも魂を持たない器に過ぎないのか」――少年期の中也を苛み続けたこの存立不安こそが、他者との絆や組織への忠誠、そして自身の誇りに命をかける原動力となっているのです。