ジャンヌ・ダルク(Jeanne d'Arc, 1412年頃 - 1431年5月30日)は、イングランドとフランスが王位継承や領土を巡って争った百年戦争(1337〜1453年)の末期に登場した、フランスの国民的英雄です。架空の伝説や神話のキャラクターではなく、公的記録や裁判文書が詳細に残る実在の歴史上の人物です。
フランス東部のロレーヌ地方にある小さな村ドンレミで、農民の父ジャック・ダルクと母イザベル・ロメの間に生まれました。文字の読み書きは習わず、信仰心篤い少女として羊の世話や家事に励んで育ったと伝えられています。しかし13歳の頃、彼女の日常は一変します。「大天使ミカエル」「聖カトリーヌ」「聖マルグリット」らの姿とともに、「フランスを救い、王太子(シャルル7世)をランスで戴冠させよ」という「神の声(啓示)」を聴くようになったのです。
当時のフランスは、長引く戦争と内紛(アルマニャック派とブルゴーニュ派の対立)によって国土の北半分をイングランドおよびその同盟軍に制圧され、国家存亡の危機に瀕していました。ジャンヌは周囲の反対を押し切り、地方の領主を説得して王太子のいるシノン城へと向かい、軍を率いる許可を得るに至ります。
彼女が向かった最前線こそが、イングランド軍に半年以上包囲されていた要衝オルレアンでした。1429年5月、ジャンヌが合流したフランス軍は瞬く間に包囲を打ち破り、わずか数日で敵を撤退させます。この劇的な逆転勝利から、彼女は「オルレアンの乙女(ラ・ピュセル)」と呼ばれるようになり、救国のシンボルとして一躍ヨーロッパ全土にその名を轟かせました。