クローゼットや押し入れの省スペース化を目的に、衣類用や化繊布団用の真空圧縮袋を使用する家庭は少なくありません。しかし、羽毛布団の収納で圧縮袋がダメな理由は、ダウンという天然素材の微細構造にあります。羽毛は中心から無数の小羽枝が放射状に広がる「ダウンボール」と呼ばれる立体構造をしており、その隙間に空気を蓄えることで高い断熱効果を発揮しています。
掃除機で極限まで空気を抜いて強烈な圧力をかけると、混合されているフェザー(羽根)の硬い芯(羽軸)が折れるだけでなく、繊細なダウンボールの枝毛が粉々に粉砕されます。一度物理的に壊れた羽毛は、圧縮袋から出して空気を含ませても二度と元のふっくらとしたかさ高には戻りません。結果として、ダウン率90%以上の高級羽毛布団であっても、わずか1シーズンの誤った保管で保温性能が30〜50%低下する事態に陥ります。
さらに危険なのが、密閉状態による羽毛布団のカビ・臭い対策の破綻です。人間は一晩にコップ約1杯(約200ml)の汗をかきます。数ヶ月にわたり吸い込んだ湿気や皮脂汚れを内部に残したままビニール製の圧縮袋に密封すると、袋の内部で局所的な結露が発生します。これが羽毛に付着した油脂分の酸化を促進させ、強烈な動物臭(ケモノ臭)や黒カビの大量発生を引き起こす原因です。大手Q&AサイトやSNS上でも「秋に出したら異臭がして頭痛がした」「側生地の内側にカビが生えて廃棄せざるを得なくなった」といった失敗談が後を絶ちません。