劇中歌として選ばれた「Jupiter」と「糸」の歌詞世界は、ドラマ『陸王』が描き出そうとした本質的なテーマと寸分の狂いもなくリンクしていました。単にヒット曲をカバーしたのではなく、詞の一節一節が作品の骨子そのものを語っていたのです。
「Jupiter」の象徴的な一節である「ひとりじゃない 深い胸の奥で つながっている」というフレーズは、マラソンという一見すると完全な個人競技の裏側にある、人と人との連帯を象徴しています。ランナーの茂木は孤独にアスファルトを踏みしめていますが、その足元には、こはぜ屋の職人たちが縫い上げたシルクレイソールの足袋型シューズ「陸王」があります。
職人たちの汗、家族の祈り、サポートチームの献身――目には見えない幾千もの思いを背負って走る茂木にとって、この歌詞はまさに心の支えそのものでした。ひとりの戦いは、決して孤独な戦いではないという救済のメッセージが、走る者の鼓動とシンクロしていったのです。
そして中島みゆき作詞の「糸」における「縦の糸はあなた 横の糸は私」という言葉は、大正時代から続く足袋の縫製技術という「伝統の縦糸」と、そこに持ち込まれた新素材開発という「革新の横糸」が織り成す布地を彷彿とさせます。父と子の相克、下請け企業と大企業の資本抗争の中で、傷つきながらも紡がれた人間関係の尊さが、楽曲の力によって何倍にも増幅されて視聴者に届いたのです。