「朝起きると喉がカラカラに乾いて痛む」という悩みを解消するためにマスクをつけて就寝する行為は、一見すると理にかなった保湿アプローチに思えます。呼気に含まれる水分がマスク内部に閉じ込められるため、口腔内および咽頭の局所湿度は70〜80%以上に保たれ、粘膜の乾燥を防ぐ直接的なメリットが存在するのは事実です。
しかし、日本耳鼻咽喉科学会や睡眠医学の専門家が警鐘を鳴らすのは、「就寝時マスクの逆効果」をもたらす複数の身体的負荷です。最大の懸念は、睡眠中の呼吸抵抗の増大です。日中に使用する高密度の不織布マスクを装着したまま眠ると、吸気時の気道抵抗が跳ね上がり、無意識下で呼吸が浅くなります。その結果、血液中の酸素飽和度が低下しやすくなり、自律神経が交感神経優位に傾いて深いノンレム睡眠が阻害されるという構造的なリスクを抱えています。
さらに、マスク内部の湿度が過剰に上昇すると、呼気の水分が水滴となってマスク内側に結露します。この結露が外気によって冷やされることで、口元周辺の毛細血管が収縮し、かえって咽頭部の血流悪化を招く「逆冷え現象」が現場の臨床データでも報告されています。喉を守るはずの行為が、結果的に中途覚醒の頻発や免疫力低下の引き金になってしまう点が、就寝時マスクにおける最大の落とし穴です。