岡本太郎の足跡をたどる際、多くの人が直面するのが岡本太郎記念館との違いです。「どちらへ足を運ぶべきか」という問いに対する編集部の見解は、「太郎芸術のダイナミズムと体系性を全身で浴びたいなら川崎、太郎の私的生活と創造の現場に潜入したいなら青山」という明確な棲み分けに集約されます。
東京都港区南青山にある岡本太郎記念館は、彼が1954年から亡くなる1996年まで実際に暮らし、アトリエとして無数の名作を生み出した私有の歴史的空間です。使いかけの絵の具やキャンバス、彫刻制作の足場が当時の空気感そのままに残されており、密室に充満する創作の生々しい息遣いを間近に観察できます。床面積約300平方メートルほどの親密なスケール感の中で、太郎という一人の表現者の肉体に最接近する体験が醍醐味です。
対照的に、川崎市岡本太郎美術館は多摩丘陵の自然地形を大胆に取り入れた総床面積約5,000平方メートルを超える広大な公立美術館です。太郎は生前、「作品を個人の財産として売買するのではなく、誰もがいつでも触れられる共有の財産にしたい」という強い信念から、川崎市への全作品一括寄贈を決断しました。ここには絵画、巨大レリーフ、家具、工業デザイン、実験的写真まで、太郎芸術の全貌を体系的に俯瞰できる圧巻のコレクションが揃っています。