この年の授賞式が世界中のファンの心を震わせた最大の理由は、人生の底から這い上がってきた名優たちによる奇跡のカムバック劇にあった。
助演男優賞に輝いたキー・ホイ・クァンは、子役時代の輝かしい脚光から一転、役者としての仕事が完全に途絶えた長い苦難の歳月を過ごしてきた。プレゼンターから名前を呼ばれた瞬間、彼は顔を覆って号泣した。「母さん、僕オスカーを獲ったよ!」。難民キャンプから始まった自身の数奇な半生を振り返り、「夢を諦めないでほしい」と叫んだ彼の言葉は、劇場中を温かい涙で満たした。
そして、主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーの戴冠もまた、胸を打つドラマだった。過酷な肉体改造と特殊メイクで余命わずかな重度の肥満男を演じきった『ザ・ホエール』。かつてのアクションスターが心身の故障や私生活の苦難を乗り越え、魂を削り落とすような演技で挑んだ重厚なヒューマンドラマは、彼にキャリア最高の栄誉をもたらした。