秋の夜長を彩る鳴く虫はスズムシだけではない。耳を澄ませば、そこには緻密に役割分担されたオーケストラのスコアが存在する。
スズムシが「リーーーーン・リーーーーン」と透明感あふれる鈴の音を響かせる傍らで、マツムシは「チンチロリン、チンチロリン」と歯切れの良い金属的なフレーズを刻む。カンタン(易丹)は「ルルルルルル……」と低めの2,000〜3,000ヘルツ付近で滑らかなトリルを奏で、エンマコオロギは「コロコロコロリー」と温かみのある中音域を担う。
生息する草むらの高さや葉の形状によって、音の反響の仕方は全く異なる。スズムシは草の根元近くの湿度が高い場所を好み、地面に響かせるように翅を立てる。虫たちが異なる周波数帯とリズムを使い分けているのは、同じ空間で求愛のシグナルが混信(混線)するのを避けるための、進化がもたらした知恵である。