藤井風の物語を語る上で欠かせない決定的な転換点がある。2010年、当時わずか12歳だった彼に、父が放った一言だ。「これからはYouTubeの時代や」。まだ地方の少年少女にとって動画配信プラットフォームが日常ではなかった時代、父・三男氏は家庭用のビデオカメラを三脚に据え、喫茶店のピアノに向かう息子の手元を撮影し始めた。
父の慧眼は、メディアの未来だけでなく息子の本質も見抜いていた。コンクールで他者と競わせるのではなく、世界中の誰にでも届く開かれた窓を用意したのだ。カメラの向こうにいる見知らぬ誰かへ向けて弾き語る経験は、風の中に「誰かのために音を届ける」という利他のスタンスを自然と根付かせることになった。