インターネット上で定期的に話題となるのが、「大手の市販パン、特に山崎製パンの商品は数日放置しても全くカビが生えない。危険な防腐剤が大量に使われているのではないか」という疑惑です。しかし、この言説は科学的事実に基づかない完全な誤解です。
山崎製パンをはじめとする国内大手製パンメーカーがカビを生えにくくさせている背景には、徹底した衛生管理と工場のクリーンルーム技術が存在します。
- 徹底的な除菌・無菌環境:パンは窯で200℃前後の高温で焼き上げられるため、焼き上がりの瞬間はパン内部も表面も完全に無菌状態です。家庭でカビが生えるのは、冷ます工程や袋詰めの際に空気中のカビ胞子が落下・付着することが原因です。大手メーカーの主力工場では、半導体工場レベルの高度なエアシャワーやHEPAフィルターを備えたクリーンルーム内で冷却・包装が行われており、包装内にカビの胞子が混入する確率を極限までゼロに近づけています。
- 水分活性(Aw)の厳密な制御:パンの水分量だけでなく、微生物が利用できる自由水の割合を示す「水分活性」を科学的に計算し、菌が繁殖しにくい配合設計が施されています。
- 食品衛生法による規制:日本ではパンへの「保存料(安息香酸やソルビン酸など)」の使用は法律で原則禁止されています。防腐剤で持たせているのではなく、純粋な製造技術と衛生管理の賜物です。
一方で、消費者が良かれと思ってやってしまう最大の失敗が「パンを冷蔵庫の野菜室や冷蔵室で保存すること」です。
「腐らせないために冷蔵庫に入れておこう」と考える方は多いですが、パンにとって冷蔵室の温度帯(0℃〜4℃)は最悪の環境です。小麦粉に含まれるデンプンは、加熱によって柔らかい「α(アルファ)化」状態になりますが、0℃〜4℃の温度下では水分が抜け、最も急速に生デンプンに近い硬い状態へ戻る「β(ベータ)化(デンプンの老化)」が進行します。冷蔵庫に入れたパンがパサパサに乾燥し、風味も食感も著しく劣化してしまうのはこの科学的現象が理由です。日持ちを延ばすどころか、パンの寿命を縮めてしまう行為と言えます。