声優交代が発表された2011年当時、アニメファンコミュニティやSNS上には少なからぬ困惑と反発の声が溢れました。特に約33年間ものあいだ増山江威子の声に親しんできた古参ファンにとって、不二子の声が変わることは作品のアイデンティティそのものが揺らぐ事態だったためです。
当時のネット掲示板やSNS上では、「どうしても増山さんの甘え声が耳から離れない」「若返りによってルパン一味とのバランスが崩れるのではないか」といった懐疑的な意見が目立ちました。これは、長期シリーズのキャスト交代において必ず発生する「原体験バイアス(最初に慣れ親しんだ声こそが正解であると感じる心理的傾向)」によるものです。
しかし、この空気を一変させた決定打が、2012年に深夜枠で放送されたスピンオフ作品『LUPIN the Third -峰不二子という女-』でした。
監督に山本沙代、キャラクターデザインに小池健を迎えた同作は、モンキー・パンチの原作初期が持っていたエロティシズムと暴力性、そして不二子が背負うトラウマと孤独を赤裸々に描く実験作でした。この重厚かつアヴァンギャルドな世界観の中で、沢城みゆきは単なる「ルパンの都合の良いヒロイン」ではない、己の肉体と知恵だけを武器に生き抜く一人の女性の剥き出しの感情を演じ切ったのです。
この作品を境に、批評家筋および熱心なファン層の間で「沢城不二子」の評価は跳ね上がりました。「増山江威子の真似事ではなく、まったく新しい峰不二子の魂を確立した」という称賛が相次ぎ、交代への抵抗感は急速に敬意へと変わっていきました。現在では、2010年代以降に作品に触れた若いファン層を中心に、「峰不二子の声=沢城みゆき」という認識が自然に定着しています。