ネット上の情報や一般的な先入観において、最も危険な誤解が「心筋梗塞=必ず激痛を伴う」という固定観念です。医学的には、胸の痛みを一切感じないまま進行する「無痛性心筋梗塞」が一定割合で存在します。
この無痛性心筋梗塞の最大のハイリスク群が、「高齢者」および「長期罹患の糖尿病患者」です。糖尿病が進行すると、全身の末梢神経や自律神経が障害を受ける神経障害(ニューロパチー)を合併します。その結果、心臓の血管が完全に詰まって心筋が激しく酸欠に陥っていても、痛み信号が脳へ伝達されなくなってしまうのです。
痛みの代わりに現れるのは、「なんとなく元気がなくボーッとしている」「食欲が急激に落ちた」「少し動いただけで肩で息をする」「意識が遠のきそうになる」といった症状です。家族が「年のせいで急に足腰が弱ってきた」「認知症が進んだのではないか」と誤認し、数日後に意識障害で倒れて初めて心筋梗塞だったと判明するケースは、臨床現場において決して珍しくありません。
また、危険因子と主な原因の整理も欠かせません。動脈硬化の引き金となる三大要因は「高血圧」「脂質異常症(高コレステロール)」「喫煙」です。これらに加えて、近年では極端な睡眠不足や過重労働、冬場のヒートショック(急激な温度差による血圧サージ)が血管プラークの破綻を誘発する強力なトリガーとなることが証明されています。「健診の数値が少し高いくらいだから大丈夫」という甘い見通しが、動脈の内壁を静かに蝕んでいるのです。