多くの参拝者がさざえ堂の前に立ち、そして内部を歩きながら抱く最大の疑問が「さざえ堂ですれ違わない理由」です。現代の立体交差道路やDNAのモデルを想起させるこの建築は、幾何学的な「二重螺旋(にじゅうらせん)構造」によって成り立っています。
堂内に入ると、右回りの緩やかな木造スロープが始まります。参拝者は右手に中心軸の柱を見ながら、建物の外周に沿って徐々に高度を上げていきます。螺旋をぐるぐると1回転半上り詰めると、最上階の頂上部分にある小さな木製の「太鼓橋(たいこばし)」へと到達します。この橋を渡ると通路は自動的に左回りの下りスロープへと接続され、今度は一度も上り階段や上りのスロープと交差することなく、建物の反対側にある裏手の出口へと導かれます。
図式化すると、2本の独立したリボンを中心軸の周りに平行して巻き付けたような状態です。上りの通路の「床」は、その下を通る下りの通路の「天井」となっており、上下の空間が立体的に噛み合っています。このため、上りの参拝者と下りの参拝者は物理的に異なる空間帯を通行しており、動線が絶対に交わらないのです。階段ではなく緩やかな傾斜路(スロープ)を採用したことで、視界の急激な変化を抑え、歩行者が自然と一方通行の流れに乗るよう巧みに心理誘導されています。
西洋ではフランスのシャンボール城にある「レオナルド・ダ・ヴィンチが設計したとされる二重螺旋階段」が有名ですが、あちらは石造りの階段です。木造のスロープ形式で成立させた二重螺旋建築は、世界中を探しても会津さざえ堂が唯一無二の存在であり、当時の日本の大工技術と和算(数学)の粋が集約されていた証拠と言えます。