日本の地下格闘技の歴史を語る上で欠かせないのが、元前田日明氏が2008年に立ち上げた『THE OUTSIDER(ジ・アウトサイダー)』の存在です。暴走族の元総長、チーマー、ギャングといったアウトローたちに合法的なリングを提供し、「不良の更生とメジャー格闘技への道筋」を提示したこの大会は、社会現象を巻き起こしました。
アウトサイダーの最大の功績は、不良の喧嘩自慢をプロの総合格闘技へ昇華させる育成機関として機能した点です。ここから頭角を現した朝倉未来、朝倉海の兄弟は、後に国内最高峰のプロMMAイベント「RIZIN」で王者クラスに君臨し、日本の格闘技界を背負って立つ存在へと飛躍しました。また、萩原京平や金太郎、黒石高大のように、地下格闘技やアウトローカルチャーからプロの第一線へ進出してファンを魅了するスターも続々と誕生しました。
一方で、2000年代後半から2010年代にかけては、全国各地で無数の地下格闘技団体が乱立しました。東京の「宴(うたげ)」、埼玉の「益荒男(ますらお)」、関西を拠点とした「喧王(けんおう)」、そして悪名高い「強者(つわもの)」や「黒鷲」など、各地域のアウトロー集団が縄張りを競い合うように大会を主催したのです。
そして2021年、朝倉未来らがプロデュースした『BreakingDown(ブレイキングダウン)』が登場します。「1分間1ラウンド」という極限まで凝縮されたルール、オーディションでの乱闘劇を巧みに演出したYouTube戦略により、地下格闘技のエッセンスをマス層向けの巨大デジタルエンターテインメントへと昇格させました。しかし、これによって「地下格闘技=BreakingDown」という図式が世間に定着した結果、旧来のアングラ地下格闘技が持っていた危険性や反社会的な匂いまでもが、ライト層の間で安易に消費されるという新たな歪みを生むことになりました。