日本国内におけるソース事情を調査すると、地域によって劇的な意識の断絶が存在することに突き当たります。象徴的なのが「家庭の冷蔵庫に中濃ソースが常備されているかどうか」という点です。
関東地方を中心とする東日本において、調味料棚の主役に君臨し続けているのがブルドックソースの中濃ソースです。大手食品メーカーのPOSデータや購買実態調査によると、東日本ではソース類全体の購入金額のうち約7割から8割を中濃ソースが占めるという圧倒的なシェアを示しています。首都圏の一般家庭では「ソースを取って」と言えば、ほぼ間違いなく中濃ソースが食卓に出てきます。
ところが、関ヶ原を越えて関西地方に入ると風景は一変します。関西の家庭では中濃ソースを常備している家庭は少数派であり、店頭の棚でもウスターソースと「とんかつソース」あるいは「お好み焼きソース」が売り場面積の大部分を占めています。
この背景には、歴史的な食文化と調理スタイルの違いが深く関係しています。関西では大正から昭和初期にかけて洋食文化や粉もん文化(お好み焼き・たこ焼き・串かつ)が独自の進化を遂げました。串かつやキャベツの千切りには「サラサラとして酸味と出汁を引き立てるウスター」を使い、お好み焼きやとんかつには「濃厚で鉄板でも焦げ付きにくい甘口ソース」を合わせるという、用途ごとの明確な使い分けの美学が定着したのです。
一方、関東では1960年代にブルドックソースが「ウスターのピリッとした旨さと、とんかつのフルーティーな甘みを1本で兼ね備えた万能調味料」として中濃ソースを強力に普及させました。都市化が進み、核家族化や共働き世帯が増加した首都圏の生活者にとって、何本も調味料を揃えずに1本で揚げ物から炒め物までカバーできる中濃ソースの利便性が、生活様式に完全に合致したと言えます。