『ずっとあなたが好きだった』において、賀来千香子演じるヒロイン・美和の結婚相手として登場した桂田冬彦。東京大学法学部卒のエリート銀行員という完璧な肩書を持ちながら、その内面は極度のマザコンとサディスティックな執着心に満ちていました。
なかでも視聴者に最大のトラウマを植え付けたのが、第8話などで登場する「木馬シーン」です。薄暗い部屋のなか、幼少期の玩具である木馬に大人の身体でまたがり、無表情かつ機械的に体を揺らしながら妻への不満を呟く姿は、テレビドラマ史上に残る怪異の瞬間として刻まれました。
当時の制作関係者や佐野史郎本人の回想によると、この木馬は元々台本に詳細に指定されていたものではなく、美術スタッフが用意した小道具を活かし、現場のインスピレーションで佐野自身が跨ったことから生まれた演出でした。アングラ劇団「状況劇場」出身の佐野が持ち込んだ前衛劇的な肉体表現が、日常のホームドラマに持ち込まれたことで、比類なき不気味さを生み出したのです。
さらに、蝶の標本収集というインドアな狂気、感情が高ぶると発する「ンチャッ」という舌打ちのような奇声、美和の指を噛む暴力性など、冬彦さん 名言 セリフとして語られる「美和~」「お母さん…」のイントネーションに至るまで、計算し尽くされたサイコパス的リアリズムが画面を支配しました。共演した賀来千香子が「本当に怖くてリハーサルから震えていた」と証言するほど、現場の空気は緊迫していたと伝えられています。