パンくんの引退後、ファンの心を最も締め付けたのが「育ての親」とも言える志村けんさんとの絆でした。
事故から約3か月後の2012年12月、『天才!志村どうぶつ園』の特別企画として、志村さんが阿蘇を訪れる様子が放送されました。安全管理上の厳格なルールにより、二人はもはや以前のように抱き合うことは叶わず、強化ガラス越しの再会となりました。ガラスの向こうに志村さんの姿を認めたパンくんは、かつて仕込まれた芸を必死に披露し、喜びを全身で表現しました。
その姿を目の当たりにした志村さんは、胸を詰まらせながら絞り出すように語りかけました。
「パン君、ごめんね。抱きしめて褒めてやりたいけど、もうできないんだよ」
人間側の都合でタレントとして仕立て上げながら、危険期を迎えた途端にガラスで隔てざるを得なくなった不条理に対する、志村さんの苦悩と痛惜が滲み出た瞬間でした。2020年3月に志村さんが急逝した際、阿蘇カドリー・ドミニオンには志村さんを偲ぶ特設の記帳台が設けられ、宮沢トレーナーをはじめとする関係者が深い哀悼を捧げています。
一方、パンくんのお使いロケで名コンビを組んでいたブルドッグの「ジェームズ」もまた、激動の運命を辿りました。穏やかな性格でパンくんを温かく見守り続けたジェームズですが、2016年3月8日、12歳(人間換算で80歳相当の天寿)で静かに息を引き取りました。犬としては大往生と言える年齢であり、その血統は子や孫へと受け継がれ、現在も同園の動物スタッフとして訪問者に親しまれています。