プロの料理人が口を揃えて強調するのが、フライパンに火をつける前の「下処理」の重要性です。スーパーで購入したお手頃な輸入牛や厚切りの赤身肉であっても、科学的な根拠に基づいた下準備を行うだけで、劇的に柔らかく仕上がります。
まず絶対条件となるのが、ステーキを常温に戻すことです。冷蔵庫から取り出してすぐに冷たい状態のままフライパンへ投入すると、表面だけが急激に焦げて中心部が冷たいまま残る「焼きムラ」の原因になります。調理開始の約30分前(夏季は20分前、冬季は40分前が目安)に冷蔵庫から出し、中心温度を15〜20℃前後に近づけておくことで、熱が均一かつ素早く伝わる状態を整えます。
次に、繊維組織へのアプローチです。赤身肉の筋や膜は加熱によって強く収縮し、肉を反り返らせて食感を硬くします。赤身と脂身の境目にある白い筋に、包丁の先で数箇所切れ込みを入れる「筋切り」を行いましょう。さらに、フォークで肉の両面を均等に刺すことで、繊維が断ち切られて熱の通りがスムーズになり、調味料の馴染みも向上します。
味付けのタイミングも極めて重要です。ステーキの塩コショウのタイミングは「焼く直前」が鉄則です。塩を振ってから放置すると、浸透圧の作用によって肉内部の貴重な水分と旨味成分がドリップとして外へ流れ出してしまいます。フライパンに肉を入れる1〜2分前に、肉の重量に対して約0.8〜1.0%の塩と挽きたての黒コショウを振るのが、最も肉汁を損なわない手法です。