現役引退後の織田信成さんが「名解説者」として確固たる地位を築いた最大の要因は、選手目線に立ちきった圧倒的な当事者意識と共感力です。特に、後輩でありフィギュア界の歴史を塗り替えた羽生結弦さんに対するリスペクトは深く、羽生さんが大舞台で快挙を成し遂げるたびに見せる「もらい泣き」はフィギュアファンの間で語り草となっています。
2018年平昌五輪で羽生結弦選手が66年ぶりの五輪連覇を達成した瞬間、テレビ東京の中継スタジオにいた織田さんは、立ち上がって机に突っ伏しながら大号泣。声にならない声で「本当によく頑張った……」と涙を流す姿がワイプに映し出され、メインキャスター陣が思わず苦笑しつつもスタジオ全体が感動に包まれました。
織田さんの解説が他と一線を画すのは、高度なジャンプの回転軸やエッジの使い方といった緻密な技術解説を論理的に行いつつ、選手がその1本を跳ぶまでに積み重ねた怪我の苦しみや重圧を自分のことのように感じ取り、感情をフィルタリングせずに吐露する点にあります。「解説者が泣いてどうする」という従来の放送倫理を軽々と超え、視聴者の感情を代弁する存在として受け入れられたのです。