加藤嘉の名を不滅のものにしたのが、1974年に公開された野村芳太郎監督の不朽の名作『砂の器』です。彼が演じたのは、ハンセン病を患い、幼い息子・秀夫(後の天才音楽家・和賀英良)とともに過酷なお遍路の旅を続け、最後は息子と引き離される父親・本浦千代吉でした。
菅野光亮作曲の壮大な組曲『宿命』が流れるクライマックス、刑事(丹波哲郎・森田健作)から成人した息子の写真を見せられた千代吉は、息子を守るために「知らねえ…そんな男は知らねえ!」と激しく首を振りながら号泣します。言葉にならない嗚咽、顔面を歪めて流す涙と鼻水、全身を震わせるその演技は、演技という枠を完全に超越した「人間の情念そのもの」でした。現場のスタッフや共演者すら息を呑んだこのシーンは、日本映画の歴史に燦然と輝く奇跡の名場面として今なお語り草となっています。