日本国内でこの潮流に火をつけた契機の一つが、かつて放送され社会現象となったNHKスペシャル「腸内フローラ〜解明!驚異の細菌パワー〜」だった。最先端のシークエンサーが描き出した腸内のお花畑(フローラ)の美しさと、そこが生死を分かつ激戦場であるという映像は、国民におおきな衝撃を与えた。現在でもNHKオンデマンド等で反響を呼び続けるこのテーマは、米国立衛生研究所(NIH)が主導したヒトマイクロバイオーム計画の成果と相まって、一過性の健康ブームを確固たるサイエンスへと昇華させた。
医学論文検索エンジンPubMedを開けば、Clostridium butyricumやbutyrate(酪酸)に関する論文数は過去10年で天文学的に跳ね上がっている。かつては培養すら難しかった難培養性の嫌気性菌たちが、ゲノム解析技術の民主化によって丸裸にされた。腸内細菌が単なる共生者ではなく、宿主である人間の遺伝子発現や神経伝達物質の生成にまで干渉しているという事実は、現代医学のパラダイムシフトそのものだ。