中村玉緒の生まれ持った風格と芸の基盤を理解する上で欠かせないのが、その華麗なる生い立ち経歴です。本名を奥村玉緒(旧姓:林玉緒)といい、1939年7月12日、上方歌舞伎の名門「成駒屋」を率いる巨星・二代目中村鴈治郎の長女として京都市に生を受けました。
血縁関係を紐解く歌舞伎名門の家系図は、まさに日本芸能界の最高峰と呼ぶにふさわしい陣容です。実兄は人間国宝であり、上方歌舞伎の復興に生涯を捧げた四代目坂田藤十郎(三代目中村扇雀)。甥には四代目中村鴈治郎や三代目中村扇雀が名を連ね、義姉には元宝塚歌劇団トップスターで参議院議長も務めた扇千景が控えます。映画界に進出したのも、父である二代目鴈治郎が映画界でも名バイプレイヤーとして活躍していた環境が自然な後押しとなった結果でした。
厳格な上方歌舞伎の伝統社会に育ちながらも、父親から注がれた愛情は深く、玉緒本人も過去のインタビューで「父はお芝居には厳しかったけれど、娘の私には甘くて優しい人でした」と述懐しています。伝統芸能の型が身体に染み付いていたからこそ、大映の時代劇から近代劇に至るまで、着物の着こなしや立ち居振る舞いにおいて他の女優の追随を許さない気品を醸し出していたのです。