遠い山なみの光の結末を徹底考察!佐知子の正体と叙述トリックの真相

遠い山なみの光の結末を徹底考察!佐知子の正体と叙述トリックの真相

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本作最大のクライマックスであり、読者に強い衝撃を与えるのが遠い山なみの光の結末に仕掛けられた語りの反転です。物語の終盤、長崎の川辺で逃げ出そうとする万里子を悦子が連れ戻しに行く場面で、極めて決定的な「主語の破綻」が発生します。

暗闇のなかで万里子を説得する悦子は、最初は「お母さんはあなたのためを思っているのよ」と第三者として話しかけていますが、突如として「あそこが気に入らなければ、私たちはいつでも戻ってこられるのよ(if you don't like it over there, we can always come back)」と語りかけます。それまで佐知子の台詞として語られていた言葉が、悦子自身の告白へと完全に重なり合ってしまう瞬間です。

さらに英国編のラスト近くで、悦子は次女ニキに対して「昔、長崎の丘へ行ったとき、景子はとても喜んでいた」と回想しますが、長崎編で悦子が丘へ連れて行ったのは佐知子の娘・万里子でした。これらの明白な矛盾は、「佐知子と万里子の母娘関係=悦子と景子の過去の姿」であることを雄弁に物語っています。

精神分析学において、耐え難い自己嫌悪や罪悪感に直面した自我は、自らの行為を他人の出来事として語り直す「置き換え(置換)」や「投影」という防衛機制を働かせます。悦子は、幼い景子の反対を押し切って米兵と渡英し、結果的に異国の地で娘を自殺に追い込んでしまったという猛烈な自責の念に耐えられず、「薄情な母親・佐知子」という架空のフィルターを通してしか過去を直視できなかったのです。

松本 悠斗
著者

松本 悠斗

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。