アル・アハリ競技場の夜風、芝の匂い、そして審判の無情なホイッスル。選手たちが残した自著やドキュメンタリー番組での生々しい証言は、30年以上経った現在も色褪せることはありません。
後半アディショナルタイム(当時の表記でロスタイム)、イラクが左サイドから得たショートコーナー。ラモス瑠偉は自著『心はいつも熱く』や後の特番インタビューで、あの瞬間の戦慄をこう振り返っています。
「相手がショートコーナーを選んだ瞬間、誰も寄せていかなかった。『足が動かない』『誰かが行くだろう』というほんの一瞬の油断。俺はベンチに向かって、そしてピッチのみんなに向かって叫んだんだ。『死ぬ気で守れ! 体を張れ!』と。でも、声は虚しくかき消された」
ショートコーナーから上がったクロスボール。中央で待ち構えていたオムラム・サルマンの頭にジャストミートした瞬間、ボールはGK前川の手をかすめてサイドネットに吸い込まれました。スコアは2-2。直後に主審が鳴らした試合終了の笛。
「笛が鳴った瞬間、足の力が全部抜けてピッチに倒れ込んだ。目の前が真っ暗になって、芝生の緑色しか見えなかった」(森保一の手記より)
ピッチに両膝をつき、呆然と天を仰ぐラモス瑠偉。ユニフォームで顔を覆い号泣する中山雅史。ベンチからピッチへ駆け寄り、倒れ込む仲間を抱き起こそうとしながら自らも涙を流す柱谷哲二と都並敏史。当時のテレビ中継で解説を務めた元日本代表選手たちの絶句した沈黙も含め、その光景は日本国民の脳裏に焼き付けられました。