「観光地の伊勢だから、美味しいのは赤福をはじめとする和菓子だけではないか」という先入観は、一度でも市内の洋菓子店に足を踏み入れれば心地よく打ち砕かれます。伊勢のスイーツ愛好家たちの舌を唸らせ、日常のデコレーションケーキから社用進物までを一手に引き受ける名店には、揺るぎない共通点が存在します。それは、「奇をてらわない純良な素材選び」と「世代を超えて受け継がれる技術の継承」です。
その筆頭格が大正5年(1916年)創業という圧倒的な歴史を誇る「洋菓子シラセ(伊勢市神久)」です。伊勢神宮に奉納される由緒ある銘菓「神宮白石クッキー」や、一層ずつ丁寧に焼き上げられる「ばうむくーへん」は、市内のみならず県外からも買い求める客が後を絶ちません。シラセのショートケーキやロールケーキを口に運ぶと、乳脂肪分の高い生クリームのコクと、昔ながらの卵の力強さを感じるスポンジが見事に調和します。派手な装飾に逃げず、生地そのものの旨味で勝負する姿勢こそが、三世代にわたって家族の誕生日をシラセで祝い続ける家庭が多い最大の理由です。
対照的に、洗練された現代的なアプローチで圧倒的なファンを獲得しているのが「パティスリー ラ・リシュテール(伊勢市旭町)」です。オーナーシェフが手掛けるガトーは、造形美、香りのレイヤード、食感のコントラストのどれをとっても一級品。季節ごとの旬のフルーツを惜しみなくあしらったタルトや、濃厚ながら後味が軽やかなショコラ系アントルメは、特別なアニバーサリーを華やかに彩る主役として絶大な支持を集めています。店舗に併設された落ち着きのあるイートインスペースで、淹れたてのコーヒーとともに上質なプティガトーを味わう時間は、伊勢の大人たちにとって欠かせない日常のオアシスとなっています。