一般的に知られる高所恐怖症は、高い場所から下を見下ろした際に「落下する危険」を脳が察知して生じる。これに対し、低所恐怖症の当事者が口にするのは、圧倒的な空間の重圧感や、底に固着されて抜け出せない感覚、さらには視界が底に向かって歪むような特殊な認知変容だ。
認知神経科学者たちの研究によると、高所恐怖症が主に高度と手すりなどの物理的障壁の有無に反応するのに対し、低所恐怖症は「見上げる壁の高さ」と「自分が位置する空間の相対的な低さ」の相乗効果によって誘発されることが多い。つまり、周囲を巨大な壁や構造物に囲まれた広大な底に立つことで、本能的な閉塞感と空間的孤立感が同時に引き起こされるのである。