日本人の精神史において、月は常に特別な存在であり続けた。日本最古の物語とされる『竹取物語』では、月はかぐや姫が帰る美しくも哀切な故郷として描かれる。
平安時代、紫式部をはじめとする歌人たちは、月の満ち欠けに人の世の無常や恋心を重ね合わせた。月を直接見るのではなく、杯に浮かべた月影や池の水面に映る姿を愛でる奥ゆかしいセンスは、日本の伝統行事として今日まで受け継がれている。
時が流れて現代。かつて祈りや憧れの対象だった月は、科学と探査のフロンティアとなった。JAXA(宇宙航空研究開発機構)をはじめとする世界の宇宙機関は、ピンポイント着陸技術や月面資源の調査を加速させている。
古典文学が紡いだロマンと、先端の天文学が切り開く未来。月を見上げるという行為は、私たちが紡いできた文明の歴史そのものを振り返る旅でもあるのだ。