ネット上のオカルトまとめ等では、「イワナが怨霊となって人を呪い殺した怪談」としてホラー要素のみが消費されがちですが、これには明確な誤解が存在します。
民俗学的な調査記録を精査すると、この話の本質は「生態系の乱獲防止」と「山岳労働者の安全管理」を目的とした社会規範の具現化です。毒流し漁法(毒流し)は、一度行うとその淵に棲む魚だけでなく、稚魚や川底の水生昆虫まで死滅させ、川の生態系を数年から十数年にわたって破壊します。山村集落において、川の再生力を無視した収奪を行う者は、コミュニティ全体の存続を脅かす「重罪人」でした。
また、深山での鉄砲水や土砂災害は、上流での天候変化によって前触れなく発生します。怪異とされる現象の多くは、増水や異変の予兆(川の濁りや魚の異常行動)を「坊主の警告」として察知できなかったことへの教訓であり、自然のサインを見落とした者が命を落とすという極めて合理的なリスク管理の知恵が民話に昇華されたものなのです。