1948年、社会心理学の金字塔を打ち立てた一編の論文が発表された。執筆者はコロンビア大学の著名な社会学者、ロバート・K・マートン。彼が提唱した概念こそが、今日あらゆる学問分野で引用される理論の原点である。
マートンは古典的な銀行取り付け騒ぎを例に取った。仮に健全経営を続けている銀行であっても、「明日潰れる」という根拠のないデマが街を駆け巡ればどうなるか。人々は預金を引き出すために長蛇の列を作り、実際に銀行の金庫は底をつく。最初の定義は紛れもない虚偽だった。だが、人々がそれを事実として受け止め、行動を起こした瞬間に、虚構は揺るぎない現実へと変貌したのだ。
この現象の恐ろしさは、結果だけを見れば「ほら、やっぱり銀行は潰れたじゃないか」と、最初の嘘が事後的に正当化されてしまう点にある。マートンは、人間の認知と社会行動が織りなすこの皮肉なループを鋭く看破した。