2002年に第16代家元を継承した千宗室(坐忘斎)。若き日より文学や芸術に深く親しみ、伝統芸能の枠にとらわれない豊かな感性を養ってきた。家元就任以来、彼が貫いているのは「時代の生活空間に即した茶の湯」の実践である。正座が難しい現代人のライフスタイルに配慮した立礼式(椅子席)の積極的な活用や、デジタル技術を取り入れた情報発信など、伝統の敷居を下げつつ本質を伝えるアプローチを重ねている。
裏千家の本拠地である京都の一般財団法人今日庵は、茶室群が国の重要文化財に指定される歴史的建造物だ。しかし、千宗室家元が目を向けているのは過去の遺産の維持だけではない。気候変動や価値観の多様化が進む現代において、一服の茶を通じて人と人との絆を再構築する文化的な試みを展開。静寂な茶室の中から、世界の混迷に対する解答を提示し続けている。