情報空間に溢れる医療情報のなかには、回復を遅らせる誤謬(ごびゅう)が少なくありません。典型的な誤解の筆頭が「喉が痛いときは抗生物質を飲めばすぐ治る」という信仰です。
一般的な風邪症候群の8〜9割はウイルス性であり、細菌を標的とする抗菌薬(抗生物質)は一切効果がありません。医師の処方なしに過去の残り薬を服用したり、無理に処方を求めたりする行為は、腸内細菌叢を破壊して免疫力を落とすだけでなく、薬剤耐性菌を生み出す温床となります。溶連菌やマイコプラズマといった細菌・非定型菌が強く疑われる臨床検査を経て初めて、適切な抗菌薬が選択されるべきです。
また、「熱が出ない風邪だから他人にうつらない」という言説も明らかな医学的誤りです。ウイルスの排出量は体温の高さに必ずしも比例しません。むしろ、発熱による倦怠感がないために活発に行動し、飛沫を広範囲に撒き散らしてしまう点こそが、現代の感染拡大を後押しする最大の盲点といえます。