「大間のマグロ漁師になれば、誰でも年収数千万円を稼げる」という言説は、完全な都市伝説にすぎません。現実の大間一本釣り漁師の年収は、獲れる者と獲れない者の格差が極端に開く二極化の世界です。
トップクラスの腕利き漁師であれば、年間の売上が5,000万円から1億円に達するケースも実在します。しかし、船団全体の平均を見渡せば、燃料代や船の維持費を差し引いた実質所得が300万円前後に留まる漁師や、年によっては大幅な赤字に転落するケースも珍しくありません。漁師を圧迫する最大の要因は、個人事業主としての凄まじいランニングコストです。
- 船舶用燃料費の高騰:津軽海峡の激流に逆らい、重い仕掛けを引いて1日中船を走らせれば、1回の出漁で数万〜十数万円の重油・軽油を消費します。
- 船舶・ハイテク機器の減価償却:マグロ漁船の新造には3,000万〜5,000万円、高性能ソナーや3次元魚群探知機の導入には1,000万〜2,000万円の初期投資が必要であり、多額のローン返済が重くのしかかります。
- 仕掛け・生き餌のコスト:マグロを誘うスルメイカやトビウオなどの生餌の確保も容易ではなく、餌代だけで年間数百万円の出費となることも日常茶飯事です。
どれほど燃料を焚き、命の危険を冒して海に出ても、魚群探知機に反応がなければ収入はゼロ。サラリーマンのように「出勤したから給与が出る」世界ではありません。釣れなければ出漁するたびに数万円単位の赤字が積み上がっていく精神的プレッシャーは、一般の労働環境の想像を絶するものがあります。