2019年8月、幻冬舎より発売されたノンフィクション作家・小松成美氏による告白本『M 愛すべき人がいて』は、発売直後から出版界とネット上に巨大な衝撃をもたらしました。「平成の歌姫が自らの過去を赤裸々に告白した」というニュースは瞬く間に拡散し、多くの議論を巻き起こしたのです。
当時、ネット上では「今さら過去の恋愛を切り売りするのか」「過去の遺産に頼っている」といった冷ややかな批判の声が上がった一方、往年のファンからは「デビュー当時からの不可解だった歌詞の謎がすべて解けた」「あゆの孤独の深さを知って涙が止まらない」という圧倒的な共感と擁護の声が寄せられ、世論を完全に二分しました。
本書を読み解く上で極めて重要なのは、「事実(ノンフィクション)」と「メディア的脚色(フィクション)」の境界線です。後にテレビ朝日系でドラマ化(安斉かれん・三浦翔平主演)された際、鈴木おさむ氏の脚本によって強烈な誇張やサスペンス的演出、アイパッチをつけた眼帯秘書といったカリカチュアライズが施されたため、「どこまでが実話なのか」という混乱が読者の間に生じました。
しかし、書籍版において小松成美氏が浜崎あゆみ本人への長期独占取材によって書き起こした「交際の事実」「同棲していた部屋の情景」「松浦氏の携帯電話に登録されていた文字表記(MASA)」「別れの夜の絶望」は、すべて紛れもないドキュメンタリーとしての実話です。とりわけ彼女が綴ってきた楽曲群――『Trust』『Boys & Girls』『appears』、そして破局の傷跡を生々しく刻んだミリオンセラー『SEASONS』や『M』に至るまで、それらが単なるポップソングではなく、松浦氏へと宛てた「血を流しながら書いた手紙」であった事実が公式に裏付けられた意義は極めて大きいと言えます。