1992年、女優の桜田淳子氏とともに山崎浩子氏が統一教会の合同結婚式に参加することを公表した際、社会が受けたインパクトは計り知れないものでした。全日本新体操選手権5連覇、ロサンゼルス五輪個人総合8位という輝かしい実績を持ち、清潔感あふれるスポーツヒロインとしてCMや教育番組にも多数出演していた彼女の告白は、全国民を驚愕させました。
教祖の文鮮明氏によって配偶者としてマッチングされた相手が、京都大学出身のエリート信者・勅使河原秀行氏でした。メディアは彼を「テッシー」と呼び、爽やかなルックスと理路整然とした語り口がワイドショーで連日特集され、一種のブームのような熱狂が生み出されました。しかし、このカップリングそのものが、教団側による周到に計算されたPR戦略であったことは明白です。「知的な京大卒エリート」と「国民的五輪アスリート」の純愛物語を演出することで、当時すでに霊感商法で社会的批判を浴びていた教団のイメージを塗り替え、若い世代への浸透を図ろうとしたのです。
なぜ、これほどの実績を持つトップアスリートが教団の網にかかってしまったのか。そこには、頂点を極めた者が直面する心理的空白(バーンアウト)がありました。過酷な練習に人生のすべてを捧げて五輪入賞を果たした彼女は、現役引退と同時に自らのアイデンティティを見失い、深い孤独と虚無感に苛まれていました。信頼していた知人から「内面の美しさを磨く勉強会がある」と誘われ、当初は宗教団体であることを一切隠したまま、親身になって悩みを聞き、全肯定してくれる環境に引き込まれていったのです。この「ラブ・ボミング(愛の爆弾)」と呼ばれる手法によって自己肯定感を満たされた後、段階的に終末論や因縁論を刷り込まれ、気付いたときには教団なしでは生きられない心理状態が構築されていました。