ネット上の掲示板やSNSでは「抜けるまで全力で息を吹き込め」「痛くても我慢して潜り続ければそのうち通る」といった危険極まりない俗説が散見されます。しかし、耳鼻咽喉科の専門医らは口を揃えてこの風潮に警鐘を鳴らしています。
耳抜きで痛い時の原因は、すでに中耳腔内が高度な陰圧に晒され、鼓膜が限界まで引き伸ばされて微細な出血や炎症を起こしている証拠です。この状態でさらに強力なバルサルバ法で加圧を試みる行為は、火に油を注ぐに等しい暴挙です。
もっとも警戒すべきは、耳抜きのやりすぎによる危険性です。過剰な圧力を中耳腔へ無理に送り込むと、鼓膜の穿孔(破れ)を引き起こすだけでなく、中耳と内耳を隔てる薄い膜(正円窓や前庭窓)が破裂する「外リンパ瘻(がいりんぱろう)」を誘発する恐れがあります。内耳のリンパ液が中耳へ漏れ出すと、突発的な激しい回転性めまい、吐き気、重度の感音難聴が生じ、最悪の場合は後遺症として聴力低下が固定化します。海中で激しいめまいに襲われれば、上下感覚を失って溺水事故に直結します。
また、飛行機の降下時に耳抜きが追いつかず、中耳粘膜から浸出液が染み出して溜まってしまう疾患が航空性中耳炎の予防と症状の焦点です。着陸後に「耳に水が入ったようなボーンとした感覚が消えない」「耳鳴りと鈍痛が数日続く」といった症状が現れた場合、航空性中耳炎を発症している可能性が極めて濃厚です。飛行中に耳が抜けなかった場合は決して力ずくで解決しようとせず、速やかに耳鼻咽喉科を受診することが聴覚機能を守る唯一の正道です。