妊娠初期に受ける診断名として混同されやすいのが、切迫流産と絨毛膜下血腫の違いです。切迫流産とは「妊娠22週未満に出血や下腹部痛を伴い、流産のリスクが示唆されている状態」を指す臨床的な広域診断名(状態像)です。一方、絨毛膜下血腫は、超音波断層検査(エコー)によって子宮壁と胎嚢を包む絨毛膜の間に明確な「血液の溜まり(血腫)」が視覚的に確認された確定診断を指します。つまり、絨毛膜下血腫による出血を起こしている状態そのものが、医学分類上「切迫流産」の枠組みに含まれる関係にあります。
受精卵が子宮内膜に着床すると、胎盤のもととなる「絨毛」が子宮内膜の脱落膜組織へと根を張るように深く潜り込んでいきます。この侵入過程で子宮側の微細な血管が壊食・破綻し、組織間に血液が滲出します。通常は自己凝固作用で吸収されますが、出血スピードが吸収スピードを上回った場合に血液が滞留し、三日月状の血腫を形成します。これが血腫の発生機序です。
多くの妊婦を不安に陥れる絨毛膜下血腫で出血が続く理由は、内部に貯留した血液の総量と子宮内圧のバランスにあります。一度溜まった血腫は一瞬で消失するわけではなく、子宮の収縮や重力、腹圧の変化に伴って、子宮頸管を経由し体外へ少しずつ排出されます。数週間から時には1カ月以上にわたって断続的な出血が続くケースがあるのは、組織の修復と血液の排出が同時進行している生理的現象によるものです。
出血の色や性状の変化は、体内の止血状況を推測する上で重要な手がかりになります。
- 鮮血(真っ赤・サラサラ):現在進行形で微小血管からの新しい出血が起きているサイン。早急な安静と医師への連絡が推奨されます。
- 暗赤色〜褐色:止血が完了し、体内に一定時間留まっていた血液が排出されている状態。
- 茶色いおりもの(茶おり)や血の塊:絨毛膜下血腫に伴う茶おりや血の塊は、血腫の内部で凝固したフィブリンや酸化した古い血液が剥がれ落ちて排出されている現象です。一時的に塊が出ると強い恐怖を感じますが、鮮血の大量流出を伴わず下腹部痛が増悪していなければ、血腫が体外へ排出されて縮小に向かっている過程である例も少なくありません。